▶︎特集「受験」
今週から、青春基地は「受験」特集はじめてみます。
中高時代では、なにより気がかりなこのテーマ。不安の渦を巻き起こす「受験」という不思議な試練を、いろんな角度から見てみたいと思います。今日からは、青春基地の大学生スタッフによるエッセイを連続して届けます。
| わたしの人生、だれのもの?
「お前たちは女なんだから、コツコツ勉強を積み重ねていくことが合格への鍵だ。
受験前になって焦りだしたって、もう遅い。一気に部活をしている男子達に追い上げられるぞ。」
私の学校は私立の中高一貫の女子校。
まだ中学生のときから、先生達は大学受験のことを口すっぱく話しました。
私は大の心配性。小学校から一度も受験なんてしたこともなかったために、大学受験っていうおっきな壁が、ほんとうに怖かったのです。
たくさん勉強をして、いい大学にいったら、いい就職先につけて、お金持ちになれる。そうしたら人生の成功者になれるぞ、と考えたのです。
だから、私は「いい大学」に合格することに決めました。
■
そうして中学3年生の終わりくらいから、私の大学受験への勉強が始まりました。
頭のいい先輩に聞いた評判のいい塾の先生を探しまくって、親に高い学費を払ってもらいながら塾に通いつめる毎日。
「塾に通って、必死に勉強している自分」
そんな自分がいるだけで、なんだか安心できました。
必死で先生の言う通りに勉強をしていったら、当然、だんだんと成績も伸びていきました。
疲れているときだって、
落ち込んでいるときだって、
熱があるときでさえも机に向かう日々は、
とってもとってもつらかった。
でもね、そうしていい点数を取ったら、
次第に先生や両親が褒めてくれるようになったんです。
「お前はできる生徒だな。このまま頑張れば、どこの大学にでもいけるよ。」
なんだかそれが嬉しかったのです。そんな言葉をかけてもらったり、テストでいい点数をとることが、自分の勉強のモチベーションでした。
■
でも、ときどき、ふと思うんです。
私って本当にできる子なのかな。
周りの期待はどんどんふくらんでいくばかりだけれど、私は逆に焦っていくばかりだった。
いい子ちゃんでいるのは本当に疲れるなあ・・・。
「元からできる子」
・・・なーんて周りの皆はいうけれど、
でもね、本当はただただビビりな私が自分の時間を削っていった代償の証であっただけで、もとから頭がいいわけでも、なんでもないんだよね。
大学受験はひたすら時間をかけて、勉強して、
必要なことを覚えてしまえば、誰でもいい成績がとれちゃうんだよ。
もちろん人それぞれ暗記が得意だとか、計算が得意だとか、そういう個性はあるのだろうけれど。
でも私はこれといって、生まれつきの特技があったわけではなかったんです。
だからこそ、
時間をかけて勉強しなければならない。
みんながおしゃべりして楽しそうな時間に、
1人早く帰って、教科書を開く。
それを続けていたからだけなのになぁ。
なんて、思っていました。
■
高校3年生の夏休み前。
そろそろ志望校を決めなくっちゃいけないころになりました。
でも、
じつは、
狂気のように勉強してきたはずなのに、
私には、行きたい大学はなかったのです。
というより、現実と向き合うことから逃げていたんです。高3になって、進路選択のときに自分が本当に行きたい大学にいけるためにずっとず〜っと勉強してきたはずなのに。
私は、ここにきて迷子になってしまいました。
それもそのはず。
私は、高校三年間、机に向かうことしかしてこなかったから。自分が何に興味があるのかなんてこと、考えたこともなかった。そうして、進路選択を迫られた段階で、私は自分と向き合うことにしました。
はじめて自分でよくよく考えてみて、そこで見つけた私のテーマがあったんです。
それは、演劇系の大学に行きたいということ。
部活でずっとミュージカルをやっていて、劇団四季に入りたいと思って毎日柔軟をしたり、女優さんに話しを聞きに行ったりするくらい本気だったんです。
そして、悩んで、志望校としてあげたのは、
偏差値の決して高いとはいえない演劇を学ぶことのできる大学でした。
しかし、
「お前は頭がいいのに、どうしてこんな大学を選ぶんだ!東大だって目指せるんだぞ。」
私がそのことを周りに伝えたとき、はじめて先生や両親はずっといい子ちゃんだった私を叱りました。
真面目に選んだ自分の進路のはずなのに。
そうか、私はいい大学に行かなくちゃならないんだった。偏差値の高くって、誰もがうらやむところに行かないと怒られちゃうんだ。みんなを残念に思わせてしまうんだ。
私は怖くなってしまいました。
同時に、
いままで必死で勉強を頑張ってきた自分を裏切っちゃってもいいの?
そんな風に思う自分もいて、
「とりあえず偏差値が高い大学にしよう。」
私はそう思い直しました。
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そうして、私は無事いい大学に合格しました。
周りは本当に喜んでくれた。
褒めてもらえたから、「あぁこれでよかったのかもな。」なんて思いました。
でも、大学生活をはじめてみて、いま・・・。
私の本当に行きたかった場所はここなのか。
正直、よくわかんないや。
私の人生のはずなのに、なんだか他人に敷かれたレールの上を歩いているみたいだ。ときどきそんな風に思うことが、私にはあります。
でも少なくとも、
自分の気持ちを押し殺して、
他人の指図にしたがった過去があったことは事実。
もし、私がほんとうに自分の行きたい学校を、自分の力でこれだ!と選択していたら、いまの私の心のもやもやはなかったのかなあ・・・。
受験を前にして、不安に思うみんなの気持ち、すごくよくわかるんだ。むずかしいね。
大学一年生 ますみ
▶︎18歳のわたし
1枚目は、受験を共に頑張ってきた仲間たちです。あとはおまけです。笑
▶︎特集「受験」エッセイ
第一話:わたしの人生、だれのもの?
第二話:孤独との戦い方について
第三話:人生の登竜門
第四話:ぼくの前から消えない境界線
第五話:擦れた受験体験記
第六話:大学受験のその先に
第七話:道しるべにする