【後編】『レフェルヴェソンス』シェフ・生江史伸さん-「本当に自分のやりたいことならば、勇気がなくても進んでいける」

2016年8月15日

様々な仕事や進路を選択している人々へのインタビューを通して、人それぞれの生き方に迫る「シゴトとシンロ」今回インタビューさせていただいたのはシェフ・生江史伸さん。
 
zenpen
 
後編では、大学時代の生活やシェフになるための修行時代やそれを可能にした生き方に迫りました。ここまで挑戦することに躊躇しない、生江さんの生き方についてのインタビューは「勇気などいらない」という一言から始まりました。
 
IMG_3716
 
生江史伸さん
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、料理人の道へ。様々なレストランでの下積み経験、そして海外のレストランでの修行を経て、2010年に自ら『レフェルヴェソンス』を開く。『レフェルヴェソンス』はミシュランガイド2015においてミシュラン二ツ星を獲得するなど高い評価を得ている。
 

自分の生き方を貫くために大学進学後は、自分で生活費を稼ぐ日々。

 
IMG_3718
 

——なぜ法学部に進んだのか、教えて下さい!

 

高校から大学に入るときたくさんあった夢の中でも1番強かったのが、ジャーナリストだったんですよ。いろんな人に会いたかったんです。僕はすごく人間に対して興味があるし、そのときもあったので、いろんな人たちに会っていろんな意見を交換しながら、いろんな知識に触れあいたいと思っていました。

 
編:へー!
 
生:でも、ジャーナリストって本当に優秀な人じゃないとなれないんですよ、それを大学に入ってから知りました。だから、ジャーナリストの夢はもう早々と諦めてしまって。笑
 
実は大学時代は親からの仕送りはもらわずに、家賃や生活費は自分で稼いで生活しました。その時のバイト先は飲食店。そこならお金も稼げるし、まかないとしてご飯も貰えたらいいなと。笑
その前から料理を作ることは好きだったんですけど、社会に出て料理を作って、それに対してお金をもらったのがこの時が初めてでした。
 
編:なぜそこまでして自分の力で生活することにこだわったのですか?
 

生:

親が厳しい人だったんです。「親がいなければ何もできないでしょ?だから親の言うことを聞きなさい。」みたいな。でも、自分も成長していく中で、いろんな人に出会って、話をするたびに自分が考える生き方と、親の考える生き方とが違うことに気づいたんです。それならば自分で自分の人生の責任をとろうと思って、結果的には自活することになりました。
 
編:すごい…
 
生:高校生からすると「すごいですね」って思うかもしれないけどやってみれば出来てしまうものですよ。しかも結構楽しいんです。
 
編:どんなことが楽しかったですか?
 

生:

何て言うかな…自分の頑張りが社会に認められてお金がもらえて、そのお金で自分が好きなことができるって新しいことだったし、自分も社会の中で責任を果たしているっていう実感があったんです。親のおかげで今の自分がいるので感謝はもちろんしています。でも、いつまでも親のすねをかじって生きていくわけにもいかないから、自分の意志で社会的な責任の中で生きていくって全ての人にとって幸せだと思うんです。時にはお金がなくて、食べるものもなくて当時の彼女のお母さんからお米をもらったりしましたが。笑
それも今では笑い話ですよ。
 

個性を活かし合う、それが理想のチームワーク

 
IMG_3771
 
編:生江さんってそんなに働いていて、体調を崩すことはないんですか?
 

生:

たまに崩しても、病院行くほどじゃないですね。笑
僕ってもともとは体力のない人間で、飲食の世界って体力があって、腕っぷしが強くて、みたいな人じゃないと務まりませんと思われがちですが、その世界を僕は変えていきたいんです。僕はよくうちのレストランで働く人には「急がなくていい、焦らなくていい」と伝えます。一人ひとりの能力に差があって、できることやできるようになるスピードは違います。だから、全員が一つの型にはまる必要はないと思うし、僕は嫌なんです。僕は彼のためにやるし、彼女は僕のこと守ってくれるみたいな連帯感っていうのかな。それが理想のチームだし、誰かがどこかをみんなで補い合いながら生活したり仕事したりしてるっていうのが人間社会だと思うんですよ。
 
編:なるほど。
 

生:

だからこそ、チームワークが大切で。いろんな人がいるから、助け合えるし一緒にやることがそこにいる一人ひとりの存在意義にもつながるんだと思います。自分がすごい人間だと思ってほしくないんですよ。だって誰一人パーフェクトではないし、補い合うしかないんです。若い人が失敗をして、謝りにくるんですけど「まぁ大丈夫。そんなに期待してないよ。」って伝えるんです。失敗することも見越して僕はその人を雇っているんです。それにほとんどの失敗は取り返すことができます。そのかわり次は失敗すんなよ、って伝えます。
 

意識せざるをえない、遅いスタート。勉強することでしか乗り越えられなかった修行時代。

 

——シェフという仕事の中で大学で学んだことは影響していますか?

 

影響はしていると思いますよ。表面的にも、より深いところでも。例えば慶應義塾大学は愛校心が強い学校なので、同じ大学を卒業したお客様とのつながりもありますし。あとは受験を切り抜けてきたので、自分は辛抱強い人間だと証明できるんじゃないかな。それから社会心理学の授業で学んだことがチームビルディングに生きたり。でも、逆に学校では教えてくれないようなことを自分で学ばなきゃいけないし、そう行ったことの方が社会の中では多かったりしますよ。だから大学で学んだことが全てではないかな。

 

——大学卒業後、いきなり料理の世界に入った時は苦労しましたか?

 

はい、僕も最初はやっぱり大変でした。もともと1年浪人していたので、23歳で社会に出た当時、僕を指導してくれたのは19歳の人でした。4歳差。でも彼の方が僕よりも料理のことをよく知っているし、店のこともよく知っている。その中で理不尽だと思うこともあったし、人間誰でもイライラすることはありますよね。そんな環境の中で「調理師の勉強をしてきた人に追いつかなきゃ」という強い意志を持てたので、勉強するしかなかったんです。「勉強しました」「努力しました」って美談みたいに思われますが、そういうものでもなくそれをしなければどうしようもなかったんです。

 
編:そのモチベーションはどこから来たんですか?
 

生:

大学の受験勉強の経験は大きかったかもしれないなあ。受験勉強ってとても苦しいし、辛いじゃないですか。でも、それを乗り越えたという経験が頑張れば周りの人に勝てるんじゃないかと信じさせてくれました。
 
編:なるほど。
 

生:

僕って料理の世界では遅咲きなんです。38歳で店を持ったんですが、料理の世界では30過ぎくらいで店を持つ人が多いんです。だから10年くらい遅い。でもそこに急いで追いつかなくて良かったと今では思います。
 
編:なぜですか?
 

生:

僕は焦ることなく、基本的な技術は日本で全部習得してから海外へ行ったんです。もちろんなるべく早く本場を知ることも大切ですが、技術が未熟なうちに行っても見るもの全てが新しくて、全部有益だと思って吸収したつもりになって帰ってきたかもしれない。でも僕は基本を知った上で行ったことで、日本の料理人も世界で引けをとらないと実感できたんです。若すぎると海外で圧倒されてしまうので、そういった自信を手にできたのはとても大きかったと思います。
 

本当に自分のやりたいことならば、勇気がなくても進んでいける。

 
IMG_3755
 

——自分で生活をする、つまり生きていくって勇気がいるような気がするのですが怖くありませんでしたか?

 

勇気はいりません。そうなるものなんです。勇気を持って飛び込むって、そこに対しての意志が行動と繋がっていない証拠で、飛び込まなきゃいけないっていう義務感になってしまうんです。でも本当にそれが正しいと思えて、自分のやりたいことならば自然とそこに進んでいけます。だから勇気なんかいらないんです。だから僕の場合は気づけばそこに進んでいました。
それでもやっぱり自分はどうなりたいか、みたいなイメージはなくてはいけないし、常に見えない中で探していかなきゃならないとは思うので死ぬまでゴールはないのかもしれません。僕も常により良い自分を目指しています。
高校生から見れば、こんな大きなレストランを開いて、そこのシェフをやっているってすごく勇気がある人のように見えるかもしれないけど全然そんなことはありません。成り行きでこうなりました。笑

 

——勇気はいらないとするならば、なんとなく仕事をしてプライベートを楽しむ人と、仕事と生活とが一体になっている人の分かれ目ってどこにあるのでしょう?私は今まで勇気が分かれ目だと思っていました。

 

勇気って出来ないかもしれないなと思うものに対して、自分に拍車をかけて突き進むためのものなんじゃないかな。でも僕は出来ないことは何もないと思いたいんです。遅かれ早かれ、きっとできるようになるし、少なくともそこに近づいていくことはできる。
だから出来ないかもしれないなと思いながら、それでもやってみようと思う。そのためには勇気は必要だけど、きっと出来ると信じて必要なことをやっていくのが僕のやり方です。

 
IMG_3923
 

——最後に生江さんにとっての「青春」ってなんでしょう?

 
生:なんでしょうね…今でも青春のような気もしているんです。若くなくちゃいけないんですかね。
 
編:自分の本当にやりたいことを模索するとか、大人になるために考える時間ですかね…
 

生:

大人と子どもの違いって、理想と現実の両方を抱えているかどうかだと思うんです。やらなければいけないことを自分の力でしっかりとやっていく。
でも、何かやりたいことを夢見て、それを実現しようとすることに終わりはないですよね。別に大人であってもそこは変わらないし、僕はもっと美味しいものを作りたいと今でも思っています。たぶん死ぬまで思い続けますし、僕はそういう意味ではまだまだ青春ど真ん中。笑
夢を見なくなったら人生終わりじゃないですかね。だから、青春とは自由にいろんなことを夢見られる時間じゃないでしょうか。
 
編:つまり、人生そのものが青春ということですか?
 
生:はい、そうですね。そういうことです。そこに年齢の境目はないと思います!
 
編:ありがとうございました!

ようこ

舞台を愛する受験生!