【前編】『レフェルヴェソンス』シェフ・生江史伸さん-「自分の人生の価値は自分で見出すしかない」

2016年8月12日

様々な仕事や進路を選択している人々へのインタビューを通して、人それぞれの生き方に迫る「シゴトとシンロ」今回インタビューさせていただいたのはシェフ・生江史伸さん。
 
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今回の取材は表参道にある生江さんのお店『レフェルヴェソンス』で行いました!なんとこのレストランはミシュラン二ツ星!!
なんだかとても緊張します…
大学を出た後に料理の道へ進んだ生江さん、自ら辛い道を選んで進んでいるように見えるその選択の裏側や、仕事をする上で大切にしていることを聞いてみました。
 
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生江史伸さん
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、料理人の道へ。様々なレストランでの下積み経験、そして海外のレストランでの修行を経て、2010年に自ら『レフェルヴェソンス』を開く。『レフェルヴェソンス』はミシュランガイド2015においてミシュラン二ツ星を獲得するなど高い評価を得ている。
 

楽しい面ばかりではない仕事、だからこそ中途半端なことは出来ない。

 
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——料理をつくる楽しさってなんですか?

 

「作る」ということも、もちろん楽しいです。でも一番は、その先に人がつながっていることが楽しいんですよね。食べ物なのでやっぱり食べていただくわけじゃないですか。だから相手が喜んで下さる顔がすごく嬉しいし、逆に作るときは相手が喜ぶ顔をイメージして、想像することが僕のエネルギーになりますね。やっぱり自分がした仕事が幸せにつながっていくっていうのはすごく健康的なことじゃないですか。
 
もしかしたら自分の仕事が、世界のどこかで誰かを傷つけていることもあるかもしれません。でも、僕らの仕事は人を幸せにすることが明確に見えるので、心の健康にいいです。

 
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——自分のやりたいことを仕事にしているからこそ、健康的でいられるのかなと感じました。自分にとって例えば音楽がそういう存在なんですが、それってそれが自分に向いている仕事だということになるんでしょうか?

 

それは美しい方の話。でも実際は苦しいこともたくさんあるんです。やっぱり人生って自由があれば責任があって、その責任も含めて果たしていけるのか、それを自分に対しての問いかけ続けなくちゃならない。例えば音楽が好きでその業界に行きたいって、それはそれでいいですけど、もしかしたらその音楽自体を犠牲にしないといけないときがあるかもしれない。自分の好みに合わない曲を取り扱わないといけないかもしれないし、あるいは自分が好きでもないアーティストの曲をプロモーションしないといけないかもしれない。でもそれが仕事なんです。そこを自分の中でかみ砕いて、でもそれでも好きでやっていけるか。本当に自分のやりたいことであれば、そこへ自然に向かっていくと思います。仕事である以上、中途半端なことは出来ないんです。そこは知っておいてほしいと思います。でも、それを知ってしまえば逆に楽しくなりますよ。笑
それを分からないままにやろうとすると人生を複雑にしてしまうし、自分を追い詰めてしまうんじゃないかな。

 

 
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——経歴を調べたのですが、慶應義塾大学を卒業されていますよね?

 

しかも法学部政治学科の出身です。笑
一般的な考え方だと、就職活動が始まって、4年生になった後くらいには就職先が決まって、自分の好きなところや、自分を好いてくれるところへと就職する、それが筋だとは思います。でも僕は大学卒業後に料理人も目指して、今はとても幸せです。それだけは知ってほしいな。

 
編:なるほど。
 

生江さん(以下、生):

ただ、これが全ての人に当てはまるかというと正直分かりません。逆に言ってしまえば、大学を出て、一流企業に就職して、お給料をたくさんもらって、休みが十二分にあって、お金もたまって、マイホームを買って、みたいな暮らしだって幸せな暮らしですし、大多数の人はそちらを目指すと思うので。
 

編:

私もどちらかといえば、そちらに近いです。なぜ高収入で安定している道を選ばずに、料理人になることを選んだのでしょう?
 

生:

サラリーマンの方たちの仕事っていうのはすごく時間も区切られていて安定してますし、自分たちの生活も保障してくれるような会社さんもあるかもしれない。でも僕はそれがうまく信じられなかったんです。ちょうど大学生になったときにバブルが崩壊して、経済システムがぐるっと変わって、山一証券っていう証券会社がなくなっちゃったんです。
 
編:え…
 

生:

今までこの船は絶対に沈まないって思っていた船が、簡単に沈んでしまった。その時に、この船に乗っかって沈んで死んでしまうより、自分で泳げるような技術を持ったほうが良い、そうしたら生き延びられるかもしれないって思ったんです。
食べ物の仕事していればきっと食べるものには苦労しないだろうし、美味しい食べ物を作れる技術があれば、いつの時代でもどんな状況でも人から必要としてもらえるんじゃないかなと。自分で磨いていく腕っていうのはそこに保険がかけられる、とも考えました。
 
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——料理人という仕事を選んで、生江さんは幸せですか?

 

僕は仕事と自分のライフスタイルが合致している人間なんです。僕の人生の主なる時間は仕事をしている時。だからそこに喜びを感じて、毎日生活しています。「月曜日病」みたいに言われるように、もしかしたらサラリーマンの人の中には仕事が嫌いな人もいるかもしれない。正直なところ、仕事が本当に充実していて、お金もたくさん稼いで、すごく幸せな生活をしている人ってなかなかいないんじゃないかな。
だからこそ、自分の人生の価値をどこに見出すのかを選んでいかなきゃいけないんです。そしてそれは自分自身で決めるしかない。言い換えれば自分の幸せは自分で感じていくものじゃないかな。
僕は仕事と生活が完全に一致している人間なので、仕事=生活なんです。仕事と生活って分けられない。しかも朝から晩まで長い時間かける仕事です。よく「大変ですね」と言われますが、全然大変じゃないんです。むしろ楽しい。毎日いろんな人たちが訪れてくれて、毎日いろいろな会話ができて、毎日いろいろと勉強させてもらって。もちろん楽しいことばかりではないですから、苦しいことや悔しいことや解決したい問題を明日の課題にしたり、そんな日もあります。それにしても毎日が本当に新しいことの継続で、すごくいい仕事だと心から思っています。

 

——それでも苦しい面もありますよね?

 
生:はい、苦しいこともたくさんあります。
 
編:例えば、どんなことが今までありましたか?
 

生:

やっぱり自由や喜びの反対側には、責任が伴います。美味しいものを出す以前に安全なものをださなければいけないし、安心できるものを出さないといけない。越えられない壁っていうものに毎回ぶつかって、それをいつか越えて次のステップに進むっていうのを繰り返してくので、そこは辛いといえば辛い。でも成長していく過程、プロセスだと思えば、そういうものなんです。正直楽しくないし、苦しいですよ。でもみんなそうやってクリアしていくものだと思うんですよね。最初は千切りやみじん切りができない人間も、いつの日にかできるようになっている。
修行中は正直やめたいって思ったときもあったし、将来このままで大丈夫なのかと不安に思うこともありました。ありましたけど、まあなんとかなっちゃうもんですね。笑
 
編:ご両親は大学を出てから料理人を目指すことに反対しませんでしたか?
 

生:

もちろん親には反対されましたね。僕のことを大学まで入れてくれた親は多分違う方向性を期待していたと思うんです。でも極論として、親はやっぱり子供が幸せなことをしているっていうのが一番幸せなんじゃないかなっていうのが僕の解釈で。親からやらされて、しかも不幸せな人生を送っていくっていうのは本当に最大の犠牲だと思うんです。自分の人生なので。もちろん親から頂いた人生ではありますけど、そこは親に感謝してできるだけ恩返しをしながら、そこを埋め合わせながら、ごまかしながら。笑
 
せっかくもらった自分のチャンスを楽しく明るく生きていく。同時に人を幸せにしていくことが、レストランでは達成できるので、そこに仕事の価値があると思ってます。

ようこ

舞台を愛する受験生!