編集者の先輩たちにインタビューをして、「編集」について考えて見る、ちょっと真面目な『編集のシゴト』シリーズ 第二弾は『はじめての編集』を執筆し、多摩美術大学でも講師を務める編集者の大御所・菅付雅信さんにインタビューしてみました。
後編では菅付さんが目指すものについて聞いてみました。編集の道を究めてきた編集者が見据えるゴールとは。
>>【前編】編集のシゴト-菅付雅信さん- 「届けたい人に届ける、届けたい人に深く届ける」編集術
菅付雅信さん
編集者。株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。『月刊カドカワ』『ロックンロール・ニューズメーカー』『カット』『エスクァイア日本版』編集部で働いたのち、『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』『リバティーンズ』編集長を務める。現在は雑誌、書籍から広告、ウェブ、展覧会、そしてプランニングを手掛ける。著書に『東京の編集』『編集天国』『はじめての編集』『中身化する社会』。新著『物欲なき世界』を2015年11月に出版。
編集者であるために大事なことは「フレッシュなものに出会うこと」
——編集や本をつくる時、菅付さんが大事にしていることは何ですか?
僕は中年を通り越したオジサンですけど、気持ちはいつも18歳のつもりなんです。死ぬまで心は18歳でいようと思っています。そして自分の同世代にも、今の18歳の人にも届くような表現にしたいと常に思います。いい映画や音楽がそうであるように。
編:そのために何か意識していることはありますか?
やっぱり常に新しいもの、フレッシュなものに出会うように自分を仕向けています。心がさびないことが大事だと思うんです。
それから僕はよく「同じ金払うなら、映画はなるべく初日に見て、雑誌も発売日に買って、書籍とかCDもなるべく発売日に買え」と言うんです。なぜかというと、後で買ったり見たり聞いたりすると、ある程度評価が固まっていたり、評価を聞いちゃったりするじゃないですか? みんながどう評価している。ネットでこう評価されている。それを見て、みんながこういっているから、たぶん僕もそう思うってことをすると自分で評価する力が落ちるんです。
常に自分が新しい映画は初日に行こうって決めていたら、他の人は新しい映画のことはあなたに聞こうって思うでしょう。人から聞かれる立場のほうが絶対いいんですよ。だからなるべく音楽や雑誌も初日に見る。初日に見られなかったりすると、すごく悔しいって思います。
プロとアマチュアの違い、「自分にどれだけ負荷をかけられるか」
——高校生のうちからやっておくべきことはありますか?
頭を鍛えること。残念ながら本を読むこと以上にもっとも効率のよい知識の入れ方は、今のところ発明されていないんです。読書は頭の筋トレで、本は頭のダンベルなんです。だからいい本をたくさん読むことですね。高校生だったら新潮文庫の100冊とかもオススメかな。ああいった名著を片っ端から読む。ちなみに多摩美の授業では生徒には年間100冊読ませて、100冊分の書評を書いてもらっています。
編:それはなぜ100冊なんですか?
まあ年に100冊くらい読めないとプロにはなれないだろうと。プロを目指しているんだから、最低年間100冊は読め、という意味です。プロとアマの違いは、自分にどれだけ負荷をかけられるかなんですね。
普通の編集者が書かない本を書く、菅付さん流の執筆術
——菅付さんは本も数多く執筆されていますが、本を書くときは書きたいゴールを決めて書くものですか?
全然決まってないです。ゴールを決めちゃった方が楽だと思うんですけど、決めちゃうと自分がわかっていることだけを書きそうになっちゃう。だから自分がわからないことが最後書き上がっていく本にしようと思って、いつも書き始めるんです。書いているうちに全然違う本になっちゃったな、ってくらいの方がいいんじゃないかなって。たいていの物語って、主人公が最後には最初と違う人になっているということですよね。それと同じで、僕の著作も、自分自身が自分の本の結末に驚きたいんです。
(菅付さんの最新作『物欲なき世界』)
——「はじめての編集」「東京の編集」「編集天国」は菅付さんが編集者であるから書いていることがわかりやすいテーマだと思います。一方で「中身化する社会」「物欲なき世界」というテーマで本を書いたのはなぜですか?
「編集」が名前につく本を3冊出して、編集って名前がつく本はこれで打ち止めにしようと思ったんです。次に出すなら思いっきり離れたものにしようと。「中身化する社会」を書いた当時、興味があったのがSNSの普及による生活の変化とか行動の変化だったから、それを書くことにしたんです。
その作業の中でやっぱり物欲というか、消費欲が落ちていることに興味を持ったから、物欲がなくなる世界はどう変化し、そこで生きる上では何が大事になってくるのかを探りたくて、かなりリサーチして「物欲なき世界」を書いてみたんです。とりあえず編集については十分書いたつもりなので、それからいかに離れるかっていうことが僕の中で大事でした。僕は編集者なんですけど、普通の編集者とは全然違う生き方をしてるし、違うビジネスをやっている。だから本を書くなら、普通の編集者じゃ書かないような本を書こうと思って、それが最近の2冊につながっています。
——変わっていく社会の中で、編集はどうあるべきでしょう?
アウトプットの方法は何でもいいんです。「企画を立てて、人を集めて、モノを作る」僕の定義では、この3つの考え方さえあれば編集です。
アウトプットの形態は本や雑誌っていうモノもあるだろうし、ウェブや広告という場合もあるかもしれない。もしかしたら、イベントを作ることかもしれないし、街づくりかもしれない。でも上の3つの考え方さえ入っていれば、それは編集だと僕は思う。
常にハングリーに。編集とは「永遠の山登り」
——菅付さんの目指すゴールを教えてください。
単純に「いい編集者」になりたいと思っています。そして新しい編集者になりたいとも思います。モノをつくる、クリエイティヴな仕事はしんどいものです。自分もやっていて、ほとんど満足することがない。正直言って未だに、こうすれば良かったなって反省ばかりなんですよ。その代わり、良いモノはいっぱい見てきているし、いいモノに自分が近づくにはどうしたらいいか、いつも考えている。
本当に自分がやってきたことには未だに納得してないし、満足してないんだけど、ちょっとずつはたどり着きたい目標へ近づいてると思いたい。永遠の山登りみたいなものですね、編集の仕事は。
編:なるほど。
結局のところ今の時代の「いい編集」、「いい編集者」とは何ぞやという話ですよ。昔は紙のメディアが編集物の中心的なメディアだったんだけど、こうやってネットだのアプリだのがどんどん増えてきていると編集のあり方も、時代と共に変わっていかざるをえない。
ましてや広告代理店やプランニングの会社が広告や広報だけでなく、「街づくり」のようなことをやるようになってきて、ある意味で編集の領域はますます広がってきていると感じます。僕の会社も紙の編集の仕事は売り上げで言ってしまえば2割くらい。8割くらいが紙ではない、いわゆる雑誌や書籍じゃない、広告やプランニングの仕事をやっていて、でも僕はそれらも編集だと思っているんです。そういう意味では新しい編集の領域をどんどん拡大させていきたいなと思っています。
——最後に高校生に向けてメッセージをお願いします!
まず好きなものを見つけることです。自分が好きなものを見つけていくのは大事で。それは他の人に負けないくらい好きになった方がいい。いろんなことが広く浅く好きな人もいると思うし、それはそれでいいんだけど。クリエイティヴなことやメディアに興味があるなら、何かが本当に好きになったら、他の人に負けないくらい、負けず嫌いなくらい好きになった方がいい。それがゆくゆくはその人の個性になるからです。強い個性は、その人が大好きなものと大嫌いなものによって、育まれるんです。