ーこの記事は、NPO法人青春基地が1年間授業コーディネートを行った都立第一商業高校1年生の生徒らがビジネスの授業において、自分たちの興味のある仕事や憧れの人を訪れ、取材し、それを学びの成果としてまとめたものです。【都立第一商業高校との協働に関するプレスリリースはこちら】 ふだんなかなか出会うことのできない大人たちの価値観や考え方に触れ、彼らはどんなことを感じたのでしょう。
いまも昔も、人々の学びや仕事を支えてきた「電卓」。商業高校である私たちの学校にとっても、さまざまな授業で電卓を使用するため、とても親しみ深いものです。勉強の相棒でもあるこの電卓が、どのような方々によって生まれたのか知りたいと思い、私たちが愛用している電卓を製造しているCASIOを訪れることにしました。
CASIOは、1957年に創業しました。経営理念は「創造貢献」であり、それまでにない斬新な働きを持った製品を提供することで、社会貢献を実現する、という意味が込められています。時計や電卓を扱っている会社と思われがちですが、その他にも電子楽器や電子辞書、電子文具等、さまざまな製品を扱っています。
今回私たちの取材に応じてくださったのは、長年電卓の商品企画に携わってきた大平さんという方でした。仕事に対して真摯かつ情熱的であり、商品比較のために毎日両腕に時計をつけているなど、ユニークな一面もある優しい方でした。
まず最初に私たちがお聞きしたことは、電卓の開発費と時間はどのくらいかかるのか、ということでした。すべての製品は、はじめに試作品が作られますが、その段階でおよそ100万円と3ヶ月ほどもかかるそうです。試作品でもたくさんのお金と時間がかかりますが、お店に出す商品になるまでには約6000万円と半年もかかるそうです。
洋服と同じように、「電卓にもTPOがある」と大平さんはおっしゃいます。場所や用途によって、ふさわしい電卓も異なるため、これまでCASIOはさまざまな機能・色・デザインの製品開発を行ってきました。その中でも、大平さんが特別な想いを持って取り組まれたものが約3万円の高級モデル「S100」です。
一つひとつの素材にこだわって製造されているこの電卓には、CASIOとして、そして大平さんにとってのプライドがありました。大平さんがこの電卓をつくろうと思ったきっかけは、まさに「電卓のTPO」というものを再認識し、電卓の価値を捉え直してほしいという人々への想いがありました。
大平さんは、日頃からお店を訪れるたびに、その店舗がどのような電卓を使用しているのかを注視しているそうですが、高級店といわれるお店が安価な電卓を使っている光景に対して違和感があったようです。そのお店がどんなに良いサービスを提供していても、100円の電卓が使われていれば台無しになってしまうし、お客様もがっかりしてしまうはず。そのときに、最上級の電卓が必要とされるはずだ、と確信したそうです。
しかし、この電卓を開発するにあたり、周りには反対する人も多くいたそうです。ですが、大平さんはこの新しい商品はお客様に必ず受け入れられるはずだ、という自信とプライドを持ち、周りを説得し、巻き込んでいきました。そして、1年半という歳月と、約1億円という製作費をかけて、高級電卓が完成しました。この電卓は、決して儲けるために作ったのではない、と大平さんはおっしゃっていました。このエピソードは、大平さんの電卓への想いがすごく伝わるものでした。
訪問前は、CASIOに対して少しお堅い会社のイメージがありましたが、一人ひとりが仕事に対して熱い想いを持っている素敵な会社であることがわかりました。約2時間にもわたる取材の中で、私たちが印象に残った言葉は、「情熱を持って、周りを巻き込んでいく」ということでした。自らが誇りをかけて取り組んでいるものに対しては、たとえコストがかかったとしても、追求し続ける姿勢はとてもかっこいいと思いました。「何事にも、謙虚にポジティブに、情熱を持って取り組めば、新しい道が開ける」と大平さんはおっしゃいます。今回CASIOの電卓を作られている方たちのお話を伺う機会に恵まれたことで、日々使っている自分たちの電卓に対して、単なるモノの一つ、としてではなく、さまざまな方達の想いが込もったストーリーのある電卓として、さらに愛着を感じるようになりました。