社会学者・西田亮介さんに聞く『18歳選挙権で政治は変わりますか?』

2016年6月16日

 
 
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西田亮介
社会学者。東京工業大学マネジメントセンター准教授。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。最近の著書に「メディアと自民党」(角川新書)がある。
 

——18歳選挙権の実施によって、若者の政治への参加率は上がりますか?

最初は、普及啓発事業が多数行われるので、物珍しさもあわさって、20代と異なった結果になる可能性も否定できません。しかし中期的に考えると18歳選挙権が実現したからといって、20代とそれほど変わらないのではないでしょうか。現在の日本社会で、18歳、19歳と、20歳の生活スタイルに明確に線を引くことはできませんよね。
投票率は年齢よりも、その時々による政治に対する関心度に左右される傾向にあります。例えば「郵政選挙」というのがあって郵政民営化是か否かで盛り上がった選挙がありました。たくさんメディアが取り上げて選挙が盛り上がると、普段投票に行かない人が投票に行くきます。若い人たちも含めて投票率が上がるか下がるかは、その選挙に大きな争点があるかどうか、つまり多くの人たちが関心をもてる話題があるかどうかに影響を受けます。

 

——西田さんは20歳になったとき、選挙に行こうと思いましたか?

20歳になったときに限らず、大学生のころはあんまり選挙にいってませんでしたね。めんどくさいと思ってた。選挙に行くとしても、なんとなく気分で投票していました。
僕は大学時代、あまり何も考えず当時流行っていた戦略コンサルタントになりたいと思っていたのですが、趣味のサーフィンばっかりやってたら留年してしまって、そちらは諦めました。その後大学院に行って研究の道に進んだんです。しかも、最初から選挙や政治の研究をやっていたわけでもないですしね。
最近は仕事柄「投票行った?」とよく聞かれるし、30代になって、それなりに年も取ってきたので、まあ行っておこうかなと。そんなに強く確信があって、行けよ!絶対、投票行けよ!みたいなことを言えた義理ではありませんね。
ちなみに、日本国憲法では、投票は権利であって義務ではないですね。世界には投票が義務化され、罰金や罰則がついたりする国もあるのですが、日本の場合はそうではありません。むろん、権利はきちんと日ごろから磨いたほうがよいのですが。

 

——気分で行った時に、誰に投票するかというのは迷わなかったんですか?

政治に関心がなかった当時の僕は、若い人か、それから投票しない政党だけはわりと決まっていました。
政治や投票についての規範的な考え方がありますよね。「~するべき」「~しなければならない」みたいな。でも人はそうは言っても、「するべき」と言われたところでやらないし、忙しいし、疲れている。そういう現実の中でどうするかを考えた方が良いと、僕は考えています。

 

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——投票に行くことは、どうしたらもっと身近になりますか?ネット投票ならばそれが可能でしょうか?

ネット投票については、投票することへのハードルを下げることには合意します。でも政治とか公への参加ってそれでいいのでしょうか。実際スーパーとか大学に投票所を設置すると投票率は上がるんですけど、どこまで下げるべきなのか。
投票には公務としての側面があります。投票所に足を運んで投票したという感覚はけっこう大事だと思います。投票コストは下げないと投票率は上がらないけど、例えばTVを見ながら、ネット経由でなんとなく投票された結果に日本社会を託したいと、少なくとも僕は思いません。

 

——高校生が投票する時は、どんなことに気を付けたらいいでしょうか?

自分の頭で考えるということですね。僕は別にとにかく、投票にいけ、投票率を上げるべき、という投票原理主義ではないので、投票に行かなくても良いと思っています。少なくとも日本国憲法上では義務化されてないし、ちゃんと考えたうえでなら、日本ではあくまで権利なので投票に行くかいかないかも、その人に委ねられてる。だから行くなら、情報を取捨選択しながら、ちゃんと自分の頭で考えることが重要だと思います。とにかく投票に行きさえすればOK、投票率が高ければOKという思考は、それはそれで危なっかしいのではないでしょうか。

 

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——話は変わりますが、、この部屋にある大量の本は全部読んだ本ですか?!

西:

もちろん全部読んでますよ。ここにあるのは、前の職場から持ってきた分が中心なので、ぼくの蔵書の一部です。
 
編:西田さんの考え方のベースになっている本とかありますか?
 

西:

1冊というわけじゃないですね。ごちゃ混ぜだから。これを読めば俺の全てがわかる!みたいな本はないですよ。でも、東浩紀さんや、宮台真司さん、高原基彰さんなど、直接影響を受けてきた人ももちろんたくさんいます。
 

——高校で政治について教える時、どうしたらバランスを保てるのでしょうか?

西:政治って、偏っちゃだめですか?
 
編:ある党だけ応援する、みたいなのは良くないと思います。
 

西:

法律を見てみると、教育基本法という法律で、政治に対する素養を涵養すると書かれています。一方で、ただし「公平中立に」とあるんです。選挙で自分に近い価値観や考えを持った政党を選ぶのにすごく変ですよね。我々がなにかを選択するってことはなにかにコミットするっていうことですよね。どうやってこの2つを両立させるのか。知識は学校で教えることができるのかもしれませんが、具体的な政党や政策について中立的に学ぶことは難しいんですよ。政治は、合理性と機能性が求められる政策と異なり、価値(観)をめぐる闘争でもありますから。
 

政治について「知らなきゃいけない」はもう十分?

 
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編:今、編集部で「ぶっちゃけ選挙に行く?」って300人くらいにアンケート取ってみたんです。結果は「選挙に行くってめんどくさい」や「なんで行かなきゃいけないの」っていう意見が多いけど、結論になると、「でも知らなきゃいけないよね」って書いてあるんです。

西:

その欺瞞的な考え方は嫌いです。実際、めんどくさいですよね。しかし、ちょっとこんな比喩で考えてみましょう。政治の自動機械を想像するんです。つまり我々がなんら政治に関して関心を払わなくても、放っておいても、全てが合理的に経済成長もするし、再配分もうまく行く機械を思い浮かべてみてください。個人は私的利益の追求に勤しめばいいから、ある意味個人の利益が最大化されていますよね。
もう片方で政治にひたすらコミットしなければならない世界を思い浮かべる。この2つを天秤にかけると、それは自動機械がいいに決まっています。けれども、政治は機械ではなく人がやるものですから、これは実現不可。監視されていないことが明らかだとすると、私的利益を増大させるのが合理的ということになりますから、汚職や政治を介した利益増大に勤しむに決まっています。だから、我々は仕方なく、政治を監視しなければならないんだと思いますよ。そのひとつの回路が選挙に行くことなわけです。
 
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——西田さんが考える「理想の政治」とはなんですか?

「理想の政治」ですか。特にないですね。合理的で、生産性の高く、また社会的包摂に貢献する政策が必要だとは思いますが、それは政策であって、政治ではありません。ただ、日本社会が求めているのは「最小の努力で最大の効果を上げる」政治の監視の方法であり、同時に「最小のコストで最大の効果を上げる」政治参加の方法を模索するっていうことだと思ってます。
「選挙にいくべきだ」といってみたところで、行かないのが我々じゃないですか。疲れるし。眠いし。よくわからないし。
多分こうすればいいいという分かりやすい答えはないと思います。得られる情報だって完全情報ではありませんし、人によって違うから、その都度自分が置かれた状況をよく考えることが大事ではないでしょうか。大事なのは自分の頭で考えることだと思います。
あとは、価値についての問いから逃げないことですね。僕たちは、ある意味では文化的な習慣として、あまり価値について議論しませんし、教育にもそのような機会が多くありません。したがって、本来、政治的な好みを形成する前提となるはずの、個々人のさまざまな価値に関する考え方が定まっていないという問題もあるのではないでしょうか。
 
 

ハルネコ

高校三年のハルネコといいます。趣味は読書と音楽探しとダンスです。政治やLGBTのことについて関心があり、陰ながら応援したり調べたりしています。

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