日本財団CANPANプロジェクトとオルタナSが開催する「NPO大学」第2回目はゲストにNPO法人ReBit代表理事・藥師実芳さんを招いて開講しました。今回のテーマは「ダイバーシティ」です。
藥師実芳さん
子ども、若者のLGBTの問題に取り組むNPO法人ReBit代表理事。自身が学生時代につくった団体をNPO法人化し会社員経験を経て、現在も活動を続けている。
小さな積み重ねで社会を変えていく。ReBitという名前に込められた思い。
今回の講座のゲストである藥師さんは早稲田大学商学部の出身。現在、自身が代表を務めるNPO法人ReBitという団体の紹介から講座は始まりました。
「ReBitという名前には社会を”little bit”を繰り返していくことで変えていけたらという思いが込められています。」
NPO法人ReBitはLGBTの子ども若者に特化した事業を行い、NPO法人化して3年目の団体です。現在は全国にいる300名の大学生・社会人スタッフと活動を行っています。
NPO法人ReBitの事業は3つ。1つ目は学校でLGBTについて話す事業、2つ目はLGBT成人式、3つ目がLGBT就活です。
藥師さんは女性として生まれたものの、小さい時から違和感を覚えており、18歳のときに男性として生きる道を選択しました。それまでは明るい女の子を演じる一方で、誰にも相談できず1人悩んでいました。
「ありのままで生きていけない。そう感じている人にあなたのままでいいんだよ、ということを伝えたいと考えています。ReBitはそれをLGBTという切り口で行っています。」
ダイバーシティって一体なに?
講座のテーマであるダイバーシティ。最近よく耳にする言葉ですが、その意味を理解している人は少ないのではないでしょうか?
「違いって何だろう、と考えてみた時にカテゴライズされた違うではなくて、一人ひとりの考え方、価値観自体そもそも違うよねという話だと思うんです。マイノリティが生きやすい社会だけではなく、あなたが生きやすい、違いが生かされる社会だと考えるといいのではないでしょうか。私はこの考え方がとても良いなと思っています。」
LGBTについて考えるとき、考えなくてはならないのは性別の問題です。日常生活で性別を考えるとき、からだの性だけで考えてしまいますが実は私たちの性別は4つの性別の掛け合わせで構成されています。1つ目がからだの性、2つ目がこころの性、3つ目が好きになる性、4つ目が表現する性です。
「例えば私は今、ネクタイをしているんですがこれは男性的だと言われることもあります。それから僕という呼び方や、ブラックコーヒーを飲むことなど。これは表現する性です。このようにからだの性だけではその人の性別を決めることはできないんです。」
同性愛者、男性も女性も恋愛対象の人、体と心の性が一致しない人など性的マイノリティの方々も人それぞれです。
「私がお伝えしたいことは2つです。1つはからだの性では性別は決まらない、そのため見た目ではわからないということ。2つ目は人の数だけ性はあるので男女だけでは分けきれないということです。」
LGBTは約13人に1人の割合で日本にも存在しています。それは左利きの人やAB型と同じくらいの割合です。
LGBTから考える5つの問題。
LGBTについて学んだところで次はLGBTから考える課題5つを紹介してくれました。
1つ目は「世界とLGBT」。世界の国々の中でLGBTへの差別禁止法を制定し、権利を守っている国はまだ約3分の1です。また日本にもLGBTへの差別禁止法はありません。
2つ目は「日本とLGBT」。2020年のオリンピックに向けて作成されている五輪憲章では性的指向による差別禁止の条項が盛り込まれました。その他にも2016年1月には超党派の議員連盟が発足、昨年には渋谷区が同性のパートナーシップを認める条例をつくりました。渋谷区の取り組みは東アジアで初の取り組みで世界中から注目を浴びています。
3つ目が「経済とLGBT」。日本のLGBTの人々が消費する市場の規模は5.9兆円。この市場の消費の傾向に注目が集まり、マーケティングの世界では一躍話題となっています。
4つ目は「職場とLGBT」。現在、働く職場の同僚に自分がLGBTであることをカミングアウトできている人は全体の4.9%。男女雇用機会均等法ではLGBTへの差別をセクハラと認定するなど様々な取り組みが行われているものの、職場でのカミングアウトは依然として難しいのが現状です。それでもGAPやLUSH、JALやANAなどLGBTの問題へ取り組む企業も増えてきました。
5つ目は「子どもとLGBT」。69%の性同一障害の子どもが死にたいと思い、そのピークが成長期であることがわかっています。70%がいじめや暴力を受けた経験を持つ一方で学校でLGBTについて学んだという高校生は全体の9%です。9割以上の子どもに必要な情報が渡っていない現状があります。
質疑応答の時間。受講者から率直な質問が飛び交います。
–自分は教育に興味があるんですが、都会と地方のLGBT理解のための教育の進み具合に差はありますか?またそれらを担い手として誰が期待されていますか?
例えば神奈川県と三重県では、子どもにLGBTについて教えるための教材を教育委員会が作成しています。また、福岡市の道徳の副教材にLGBTが入っていると聞きます。地域性というよりも、中心にこの問題に取り組む熱量が高い人がいると波及して進んでいる印象です。
そして担い手として期待されるのはやはり教職員です。保護者にカミングアウトするのが難しいという調査結果もある中で教職員のサポートは重要です。
–簡単に言えることではないとは思いますが、やっぱりカミングアウトしずらい風潮があるのかなと。それをしっかり伝えられるようになるためには、やっぱり社会の側が変わる必要があると思うんです。
すごく難しい問題ではあります。みんなが…カミングアウトしたらいいというものではなくて。カミングアウトをするためには前提としてLGBTであってもなくても受け入れられるという環境や周りの理解が必要なんです。その理解をつくるためには、メディアを通じた発信や、私たちのように、身近にいるんだよと人肌の温度で伝えていくことなどが大事なのではないかと思います。
でも、これはどうすればいいんだろうと日々悩んでいますよ。
–LGBTの就活支援ってなぜ必要なのでしょうか?そしてそれらを応援している企業ってどうやって見つけているんですか?
就活の課題って実は大きくて、年間3万人のLGBTの人々が就職活動を行っています。でもロールモデルもいないなかで安全に働くことができないんじゃないかって悩んで、自分の就活に踏み切れない人も多いんです。それから採用で差別が生じることもあります。
さらにカミングアウトできないことで悩む人の自立支援もとても大きな問題です。これら就活で想定されていないために生じる難しさと、就労支援という領域でも非常にハイリスクな層なので取り組む必要がある課題なんです。
そして2つ目はLGBTに取り組む企業をどのように探せるのか分からないという声を多くもらったので、自分たちでホームページを立ち上げました。
大事なことは、今日からできることが何か考え取り組むこと。
「今日からできることを話し合ってもらいましたが、”できること”と”やること”には常にギャップがありますよね。それでも小さな一歩を続けていくことで社会って変わるんじゃないかと思います。だからLGBTのことを理解してほしいということだけを伝えたいわけじゃなくて、見た目でわからない違いを誰もが持っているからこそ、あなたと誰かが違うことを前提として、その違いを尊重していけたら素敵だなということを伝えたくて話しました。そのきっかけにLGBTがなれば嬉しいです。」