青春基地の編集部も40名を超える人数に!
しかし私たちも「編集」について正直分かっていないことばかりです。そこで編集者の先輩たちにインタビューをして、「編集」について考えてみる、ちょっと真面目な【編集のシゴト】シリーズはじめます。
☞#TBTシリーズこの記事は2016年1月6日に公開された記事を再掲したものです。
第1回は、昨年11月末までgreenz.jp編集長を務めていた兼松佳宏さん。著書に『ソーシャルデザイン』のほか、『グリーンズ編集学校の教科書』などがあります。兼松さんに編集者とはどんなシゴトなのか、聞いてみました。
兼松佳宏さん(Kanematsu Yoshihiro) >>“共感”を生むグッドアイディアを記事にして、“ほしい未来”をつくるためのヒントを発信するウェブマガジン「greenz.jp」元・編集長。2016年4月より京都精華大学人文学部講師に就任。勉強家。
――高校時代から編集者になりたかったんですか?
全く考えたこともありませんでした。ファッションデザイナーに憧れる高校生でしたね。僕は秋田出身の田舎者なんですけど、美容室に置いてある雑誌がとにかくカッコよくて。そんな雑誌に出てる人みたいになりたかったけど…当時の秋田にはそんなかっこいい服は売ってないんですよ。こういう服着たいのに、売ってない。じゃあ作ろう!って。笑
で、ファッションといえば、もうフランス。だから大学はフランス語学科を受けたんですが落ちてしまって。滑り止めで受かったのが文学部で、そこに進学したんです。いろいろ単純すぎますね。笑
――何を仕事にしたいか、わからないのですが、どうしたら見つけられますか?
よく言われることだけど、今って情報がありすぎるよね。僕みたいに曖昧な憧れのまま、進むことができたのは逆にラッキーだったのかもしれない。あいかさんは何か夢はないの?
あ(あいか):演劇は好きだけど、芸術系だと将来安定しないなと思うと、仕事にするには不安だし…。趣味でやるくらいがちょうどいいかなと思うんです。だからなおさら決まらないんです。
やっぱり僕の時代よりも社会全体が早熟というか、いろいろ前倒しされているのかな。あ、それはすごくいいことだとは思っているのだけど。僕らみたいに、自分探しを30歳になるまでやる必要なんて本来はないはずだし。「自分の人生をかけてやるものとの出会い」をどう前倒しでつくれるのかって大事だと思うんです。
――兼松さんは起業するとき怖くありませんでしたか?
起業にも2種類ありますよね。ひとつは、ちゃんと会社組織をつくり、みんなで大きいことをやっていきたいってタイプ。もうひとつはフリーランスで、とりあえず自分の家族がまかなえればいいっていう、まあ、僕みたいなタイプ。僕は2006年にウェブデザイナーとして独立したんだけど、当時は「社会的なテーマに、クリエイティブを」という思いを持っている人は少なかったから、志のあるクライアントも面白がってくれて。独立する前にはそれなりにフリーの仕事が来ていたんです。だから不安はなかった。今と同じくらい稼いでいたしね。笑
それから性格のおかげもあるかもしれないなあ。なっていない自分に合わせて無理に頑張ろうじゃなくて、すでにある状況から始めるっていうのが一番安心。だから背伸びはしないんです。
――何かをやめて、それでも成功する人に憧れます。そんな人の共通点ってなんでしょう?
やっぱり愛されている人じゃないですかね。思わず仕事を頼みたくなる人。仕事の実績はもちろん大事だけど、それよりもその人がつくりたくてつくっているものがおもしろかったりすると、一緒に仕事をしてみたいって思う。そういう人には仕事が集まってくる。
――それって人脈が先ですか?それともやっているうちにそういう人が周りに集まってきたんですか?
両方、両輪。
あ:最初は少しだけ人脈がなくちゃいけないんですね。
それを「人脈」と考えたことは一度もないし、僕はその言葉にピンとこないんだよね。気付いたらそばに仲間がいたって感じかな。言葉は大事なんですよ。日常的に使っている言葉ってその人の世界観が自然と出てしまうから、そこは大事にしてほしいと思っています。
「編集者=おもしろがる仕事」兼松さんが思う編集とは?
僕にとってのターニングポイントは、24歳のときにイベントで ゲストスピーカーになったときです。今までお客さん側にいた自分が、話す側になったときに「僕の話を聞いてくてる人がいるんだ」って自信を持てた。その時、自分のステージが変わったんです。登壇者側で生きていこうって。もちろん厳しい道ですけど。
自分が興味を持って勉強していることを誰かが「おもしろい!」って言ってくれたら嬉しいじゃないですか。お互いおもしろがって、ゲストに呼んだりフィーチャーするって大事で。そうやって面白がる人がもっと増えていったらいいなと思います。
――じゃあそのおもしろがる側にいるのが編集者ですか?
そう! おもしろがるのが編集者の仕事。一人では自分の魅力ってなかなか気づけないし、自分で自分の長所を語るやつって 何か鼻につくじゃん。そういうのを斜めの関係で気付かせてくれるのが編集者なんですよ。
――編集長の仕事ってどんなものでしたか?
最初に断っておくと、僕はgreenz.jp以外のメディアで編集長をやれると思わないんです。企画をしたり、文章の校正はできるけど、写真やエディトリアルデザインのディレクションとか、いわゆる編集者の仕事はできないんじゃないかな。
編集長として僕がやるべきは、読み応えがあって、そわそわして、動き出したくなるようなgreenz.jpらしい記事を毎日出すこと。そのためにコミュニティを温めて、いい記事があがってくる土壌をつくることにしたんだよね。それを編集と呼ぶかどうかは謎だけど。
――「コミュニティを温める」とは?
ライターさんに「greenz.jpに関わっていて嬉しい」と思ってもらえる状況をつくること。ライターさんが20~30人の時代には、半年に1回は必ず30分時間をとって、「この半年どうでしたか?」「ここからの半年どうしていきたいですか?」「今ある悩みはなんですか?」っていうことを聞いてたんです。そしてgreenz.jpでできることはサポートする。そうやって信頼関係を大事にしてきた。
あ:そういうところから、「らしさ」みたいなものが生まれるんですね。
そうそう、「greenz.jpで僕の世界観を全部表現したい!」みたいなのはあんまりなかったんです。ただちょっと支える側に周りすぎた感もあって、そろそろもう一度僕の世界観を表現したいと思っている自分もいる。だから編集長を卒業することにしたんです。今はひたすら自分のために文章を書きたいし、編集するよりも、編集されたい。笑
――なぜ「勉強家」と自分のことを呼んでいるのですか?
僕は編集者である以前に、勉強家だと思っているんです。山で考えてみるとわかりやすいかも知れません。今までなら編集長、これからだったら大学の先生。一番上の仕事は変わっても、真ん中にある「勉強家」はぶれないんです。全て、「勉強家」の上にある。
この真ん中に入る本当の肩書きのようなものが大事だと思っています。ついつい一番上ばかり考えるし、そこにばかり目が行くかもしれないけど、自分の中で大事にしていることを後で探すから大変だし、ぶれちゃう。
あ:そういう人に憧れます。でもそれって普通じゃないですよね。
本当は先生が、「これやってるときの顔いきいきしてるな!」っていう、その一言だけでも言ってくれたら「そうなの私?」ってなるじゃん。学校で、それを探すのをみんなでやりたい。 まぁ、なかなか決まらないし、変わっていくものだけどさ! 笑
――なにかをおもしろい!って突き進める人がすごいと思うんです。自分らしさを失わないためにしてきたことってありますか?
今思うと、自分らしさを失うことの方が無理だと思うんだけどね。誰だってご縁のなかで生きていて、いま・ここという状況には必然性がありますから。とはいっても、それは最近の気付きなので参考になりませんね。笑。
中高の時の僕は、クラスで必ず1人はいる、浮いたキャラクターだったと思います。「普通にはなりたくない」「人とは変わったことをしてみたい」ってずっと思ってたし、悩んでばっかり。でも、その違和感を捨てずに、しっかり向き合ってきたのがよかったのかもしれない。
――違和感って「普通じゃないこと」が普通になればなくなりますか?
なくならないんじゃないかな。違和感は誰かと自分の間に生まれるものだから、こういうときに違和感を持つんだ、という自分のものさしを大事にしてほしい。自分の感受性くらい自分で守れ、ということですね。
そして、そのもやもやを思い切って人に伝えてみてください。人に話すと自分も整理できるし、切実な問題意識は人の心に響きます。もやもやこそ、その人にしかできないマイプロジェクトの種なんです。
☞#TBTシリーズこの記事は2016年1月6日に公開された記事を再掲したものです。