こんにちは。高校2年生の中江彩(さえ)です。今、父の転勤のためにパリに住んでいます。インターナショナルスクールに通いながら国際バカロレアというプログラムに挑戦しています。様々な価値観を持つ色々な国の人たちと生活をしていると、色々と考えさせられることは少なくありません。今日は、その中でもパリ同時多発テロ事件について私が感じたことをお伝えします。
11月13日に起こったパリ同時多発テロ事件
さっそくですが、「パリ」と聞いてどんなイメージが思い浮かびましたか?
豪華な建物、食べ物にスイーツ。芸術と愛にあふれる街。お洒落なパリジェンヌはみなさんの憧れかもしれません。
しかし、そのようなイメージも先月13日のテロ襲撃事件で壊されてしまったところはないでしょうか。事件はパリジェンヌが友達とカフェで一息ついている、そんな金曜日の夜に起こりました。約30分という短い間に、賑やかなパリ中心部のカフェ、レストラン、コンサート会場と郊外にあるサッカースタジアムが悲劇の舞台へと変わり、120人以上もの方々の命が奪われました。
革命と民主主義の発祥地であるフランスの合言葉は「自由、平等、博愛」です。人々はこの3つを尊重し、誇りとして生きています。そんなフランスを襲ったテロ。
2015年の年始めに起こったシャルリー・エブド事件はご存知でしょうか。パリにある風刺週刊誌の本社が襲撃され12名が殺害された事件です。言動の自由、表現の自由、報道の自由を巡って議論が起こりました。
そして先月の同時多発テロでは、楽しむこと、愛すること、そして生きることの自由が侵害されました。その上で、フランスのオランド大統領や、アメリカ・オバマ大統領をはじめとした各国のリーダーは今回の事件を「全人類に対する攻撃」と呼んだのだと思います。フランスや各国の多くの人々は、当たり前であって必要不可欠な権利を不条理に取り上げられたことに怒りを示し、このような暴力には怯えず、立ち向かうことを決めます。
「On n’a pas peur」;「We are NOT afraid」; 私たちは怖くない。
フランス人はこのようなメッセージを広め、テロリストに自分たちの生活を侵害され、取り上げられることを拒否しました。また、献血には長い列ができ、「#PorteOuverte(#開かれたドア)」というハッシュタグが広まり、交通規制が厳しいパリで迷っている観光客やテロの被害に遭った方々などを家に受け入れる動きもはじまりました。フランス人もそうでない人も、国全体が喪に服し、観光シーズンのパリが異様な静けさと悲しみに包まれた瞬間です。
私の学校の同級生の中には、フランス人もアラビア人もいます。事件当時はギクシャクしてしまいましたが、今はその仲違いこそISが望んでいたものだ、ということに気づき、一層仲良くなっています。
写真は私がレピュブリック広場にて撮ったものです。事件から2日後、レピュブリック広場に行くと、すでに沢山の花が世界中から届けられていて、いくつものろうそくの火が灯っていました。パリの事件を通して、パリのみでなく世界が繋がった、そう感じました。
事件当日は、「虐殺」「血の海」「戦争」自分とは関係のないと思っていた言葉を急に身近に感じた夜でした。私が実際に訪れたことのある場所が、テレビのスクリーンの向こう側で異常な空気に包まれていたのです。現実味はなく、私はぼうっとした頭で友達の安否を確認しました。実際に何が起きたのかを理解すると、ショックや動揺、恐怖、同情…。
言葉にならないほどの様々な感情が私の中から溢れ出てきました。その中で、自分がどれだけ恵まれているのかということには改めて気づき、平和な毎日に感謝をするのと同時に、今ある命を大切にしたいと感じました。
パリだけじゃない。私たちだけじゃない。
このようなテロはパリだけで起こっているわけではないことを、忘れてほしくありません。中東やアフリカでは日々、不条理な戦いに自らの命、または大切な人の命を奪われている人々が大勢います。その上で、世界のメディアはパリだけに重点を置きました。
人の命の価値は変わらないはずなのに、「いつ命が奪われるかわからない」という状況は、私たちやフランス人にとっては「異常」、中東やアフリカ人の人には「日常」ということでしょうか。
パリのテロ事件の前からこのような出来事は起こっていたのに、メディアはほとんど無視し、目をつむっていたことは悲しい事実です。
「ニュースは雑誌と同じよ。私たちが今の流行を操っている。結局、政治家たちに踊らせられているのよ。」これは私の先生の言葉です。世界では毎日、様々なことが起こっており、ニュースでは取り上げられない人々も苦しんでいるということを、頭の片隅に入れておく必要があるのかもしれません。
そして、このような戦いのため、すべてを捨てて自国から命がけで逃げてくる人々のことも忘れてはいけないと思います。難民の人々には、私たちの助けが必要です。しかし残念ながら、このような事件は差別や偏見を増やすばかり。特にISは今回、難民を装ってテロリストをヨーロッパに送り込むことに成功しました。従って、欧州各国で右翼の政党は力を上げ、移民嫌いもますます増えてしまっています。
私たちにできること
しかし事件の容疑者の多くはフランス国籍を持っています。これはどういうことでしょうか。彼らテロリスト達は私たちのコミュニティから生まれた、一番の被害者なのではないでしょうか。ISに責任を押し付けるだけでは何も変わらないのです。嫌悪や憎悪を強めるのではなく、互いの理解を深め、尊重し合う。当たり前のことですが、今だからこそ重要だと感じています。
中東やアフリカから離れた島国である日本にとって、難民問題はまだまだ身近なものではないかもしれません。しかし、国際化やオリンピック2020年に向け て準備が進む中、外国人観光客や移住者も増えていくことでしょう。そんな中、彼らに恐怖や偏見を持って接するのではなく、同じ人間として接することの重要性をテロ事件が示しました。
クリスマスの季節、恋人、家族や友達と楽しい時間を過ごす人も多いと思います。そんな時に、一瞬でもそのようなことができない方々のことを想像してみます。無知ではないこと、それだけで少しでも平和に貢献することができると私は信じています。